それはクリスマスの夜の出来事だった。正確には日付が25日になったばかりの真夜中のこと。ふと目が覚めるとその男はベッドの脇に立っていた。しかし、サチコは少しも驚かなかった。ここはサチコの部屋。多少狭いが綺麗に片づいている。サチコはベッドから上半身を起こしてしばらくぼんやりと男を見ていた。真っ暗な部屋の中で男の周辺だけが優しい光に照らされている。サチコは男の横に見慣れない立派な椅子があることに気付いた。男の年齢は30歳を少し越えたぐらいだろうか。いかにも落ち着いた雰囲気である。
「あなたが話をしてくれるわけね。」
サチコは眠そうにつぶやいた。男はにっこり笑ってうなずくと、ゆっくり椅子に腰掛けておもむろに口を開いた。
「私はあなたにお話しするためにここに来ました。」
サチコは布団から抜け出し、ベッドの縁に腰掛けた。こうすると男と向かい合う形になる。ヒーターのスイッチが切られた部屋の中は冷え切っているはずなのに、不思議と寒さは感じなかった。
「さあ、私にいったいどんな話を聞かせてくれるの?」
サチコは興味津々の表情で男を見た。もう眠気を感じることはなかった。
「これはどこにでもいるようなある男のお話です。」
男は静かに物語を始めた。彼の低く通る声は、真夜中の暗く寒い部屋の中で優しくサチコの耳に響いた。
いつものように仕事を終えてその男は背中を丸めて駅の改札口を出ました。ここはとある郊外の町です。男にとって通勤には少々不便ですが、やっとマイホームを持つ事のできた場所なのです。
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